1.はじめに

「日本三大ペグマタイト鉱物産地」として有名な福島県石川町は、平安時代の代表的な女流歌人、和泉式部にゆかりがある地として史跡が残されています。
今回は、福島の水30選に選ばれ、和泉式部の産湯として使用されたとされる「小和清水」(写真-1)と付近の「塩沢鉱石水」(写真-2)に足を運びました。


2.位置について
野木沢駅から県道139号線を進み、突き当りの丁字路を左折後、同県道を道なりに進みます。大きなカーブの途中、右手に薄黒の桜が見えます。カーブを曲がりきる頃に右手に「福島の水三十選小和清水」という立体看板が見えます。その三差路を右に進むと「小和清水」に到着です。小和清水の立体看板から50m先左側に専用の広い駐車スペースがありますので、車でお越しの際はご利用ください。
塩沢鉱石水には国道118号線を経由します。野木沢駅から県道139号線を600m進むと前方に国道118号線と交差する架道橋が見えてきます。そこで県道118号線に合流し、浅川方面に1㎞ほど進んで「ふるーるレストラン&カフェ」という建物を通り過ぎると50m先左側に大きく左折する道があります。左折して、細い道を少し進むと左手に「塩沢農業構造改善センター」と「塩沢鉱石水」の道のりを示す小さな看板があります。看板に従い、200m道なりに進むと「塩沢農業構造改善センター」の看板が見え、ほどなく「塩沢鉱石水」が見えてきます。
![図-1 湧水箇所案内図 [地理院地図(電子国土Web)より引用・加筆]](http://www.sinkyo-tisui.co.jp/wp-content/uploads/2025/06/89-04-04.png)
3.湧水の水質について


水質を比較するためにそれぞれの湧水を持ち帰り、イオン分析を実施してトリリニアダイヤグラムとヘキサダイヤグラムを作成しました(図-2,図-3)。
作成したトリリニアダイヤグラムを見ると2つの湧水はどちらも領域Ⅰにプロットされる一般的な地下水と言えますが、小和清水が若干領域Ⅱに近く、やや深い場所を流れてきた地下水かなと感じられます。
また、ヘキサダイヤグラムについては「塩沢鉱石水」のほうが、Mg2+とCa2+およびHCO3-の割合が多いことが分かります。「鉱石水」の名前からもイメージされる、イオン成分を多く含む清水のようですね。

4.地質と湧出機構
湧水周辺部の地質分布図を示します(図-4)。
石川町周辺部は花崗岩類や変成岩類が分布する地域で、特に花崗岩類に含まれる鉱物の採掘が盛んに行われてきたことから「日本三大ペグマタイト鉱物産地」と言われています。
今回の湧水もそれぞれ花崗岩類(花崗閃緑岩)の分域で湧出しております。
石川町を代表する鉱石である花崗岩ペグマタイト(巨晶花崗岩)は古い花崗岩類に新しい花崗岩類が貫入した周辺部に多く産出します。花崗岩中には貫入時に発達した亀裂が多く存在し、これらの亀裂部に沿って流れる裂か水が地下水として存在することが予想されます。
今回の湧水も花崗岩中の亀裂に沿って流れる地下水が湧出したものと推測できます。湧水の位置が南北に並んでいることから貫入岩体の方向と関係があるかもしれませんね。
![図-4 湧水箇所周辺の地質分布状況 [5万分の1 土地分類基本調査「須賀川」(1984)「棚倉」(1985) 引用・加筆]](http://www.sinkyo-tisui.co.jp/wp-content/uploads/2025/06/89-04-08.png)
5.「小和清水」と「塩沢鉱石水」の由縁について
小和清水に和泉式部の逸話を記す看板が立てられていました。一つは小和清水に残る和泉式部の逸話について、もう一つには和泉式部伝説とゆかりの地と称される由縁が記されていました。今回は小和清水の逸話についてご紹介します。
”この清水は、その昔この地方を治めた豪族真垣荘司安田兵衛国康の一子玉世姫(後の和泉式部)が産湯を浴びた清水と伝えられ、どんな干天続きでも
この冷泉は絶えることがない。又この清水を飲むと大変音声がよくなり歌が上手になると伝えられている。„
と記されていました。
また「小和清水」という名称は、石川郡地史に上記の内容について述べた文章中に「小和清水」と呼称する言葉が残されていたことが由来となっているようです。
一方「塩沢鉱石水」は、近年整備されたばかりの新しい清水です。平成二十年に立てられた「しおざわ鉱石水整備記念碑」には、日本三大ペグマタイト鉱物産地である石川町でペグマタイトから湧く清水を活かした公園整備が行われ、多くの塩沢区民の協力のもと地区内外に誇れる憩いの場が完成し、同時に清水に「しおざわ鉱石水」と命名しました。この公園とすぐ近くのグラウンドおよび農業センターを地域の憩いの施設として願いが込められています。



6.石川町の湧水に触れて
今回ご紹介した「小和清水」と「塩沢鉱石水」は2.5㎞ほどしか離れていませんが、水質や水量の違いが確認できる取材となりました。
小和清水は蛇口を捻ったような丁度よい量が流れており、塩沢鉱石水は小和清水より少なく、真下に向かってぴちゃぴちゃと音を立てて流れておりました。
石川町の特産物であるペグマタイトから湧く水という珍しさが名前からも伝わりました。鉱石水という名前は小和清水との違いを考慮して命名されたのではと感じました。
また、小和清水は石の町という印象と異なる視点で石川町を見るきっかけになりました。
最後に、昨年4月に開館した「石川町立歴史民俗資料館イシニクル」に行ってきました。館内に入ると石川町の歴史と国内外の鉱物標本が展示されており、時が経つのも忘れるほど魅力的な展示物であふれていました。企画展示やイベントも催され、何度訪れても発見が尽きない仕組みになっています。お時間がありましたら、足を運んでみてはいかがでしょうか。



※新協地水(株)技術部