1.はじめに
車で道路を走っていると、道端に小さい庵のような施設を見かけることがあります。多くの場合、これらの施設は湧水の水汲み場や湧水に併設された休憩場となっていますね。
今回は、「合戦場のしだれ桜」で有名な桜の郷、旧岩代町（現在の二本松市東部地域）の道路沿いに隠れたように点在する湧水たちを訪ねました。
今回の湧水たちは国道459号沿いの道の駅「さくらの郷」を中心に、場所を探すと分かりやすいと思います（図-1）。ただし、島田の清水はやや狭い道路沿いにありますので、車での訪問時は注意が必要です。
2.それぞれの湧水の顔
① 島田の清水
島田の清水は、口太川沿いの水田脇の山際にひっそりと佇んでいます。竜の口から毎分1.0L程度の湧水が出ており水音を奏でています。
場の雰囲気とあわせ、とても静かな空間がそこにあります（写真-1）。
② 海谷清水
海谷清水は、道の駅から50mほど北側の国道沿いに位置します。休憩場の庵のほか、名水の看板が目を引きます（写真-2）。
湧水量は毎分4.0L〜5.0L程度で、汲みやすいよう石組みで囲われています。
場所が良いこともあり、湧水を汲む人が頻繁に訪れていました。
地域でも有名な湧水なのかなぁという印象です。
「看板湧水」といったところでしょうか（写真-3）。
③ 桜清水
桜清水は、国道349号から浪江方向に国道459号を折れ、約800m進んだT字路に着くと右手に見えてきます（写真-4）
湧水量は毎分7.0〜8.0Lと、他の2つの湧水と比較するとかなり多い状況です。ベンチも併設されており、ちょっとした休憩がてら湧水を楽しむこともできる、隠れ家的な場所となっています。
3.湧水の水質について
湧水を採水して実施したイオン分析結果を基に作成したトリリニアダイヤグラムとヘキサダイヤグラムを示します（図-2、図-3）。
トリリニアダイヤグラムでは、島田の清水と海谷清水は一般的な地下水である領域Ⅰに区分され、ほぼ同一の水質を示しています。一方で桜清水は領域Ⅲと領域Ⅰの中間型に区分され、やや水質が異なるようです。
ヘキサダイヤグラムでも3つの湧水の示すパターンはHCO3–の割合がやや多い六角形となり、似ていますが海谷清水ではHCO3–の割合が特に多く、桜清水ではCl-の割合がやや多い等の違いがみられます。
比較的近い距離にある湧水でも、水質の特性は全く同じにはならないようです。
4.地質について
本地域は阿武隈山地の花崗岩地帯に該当します。地質図をみると、桜清水と他の二つの湧水では花崗岩の種類が異なることが分かります。
水質の微妙な違いは地層の違いに起因するのかもしれません。
また、当日の外気温は30.0℃を超えていましたが、採水時の水温は13.0℃～15.0℃と冷たく感じる温度でした。このため、各湧水は表層部付近を移動してきた地下水ではなく、花崗岩類の深部の亀裂帯中を移動し、地表と接する場所で湧出している裂か型の地下水であると考えています。
5.おわりに
訪問した3つの湧水は、それぞれ水汲み場としても整備されておりました。湧水を汲みに来た人が使いやすく、見た目も綺麗です。
水の流れを見ていると気持ちが落ち着く気がしますね。3つの湧水とも、地元の人達に大切にされており愛されていることが感じられます。
今回は夏の盛りに訪れたため、濃い緑が目にもまぶしいくらいでした。また、四季の豊かな福島県のなかでも、湧水周辺を含む旧岩代町は滝桜で有名な三春町と並ぶ福島県内の桜の名所です。道の駅「さくらの郷」の周辺部も春先は桜が咲き誇る、まさに春爛漫の風景となります。
桜の花は、社会情勢に関わらず花を咲かせてくれます。可能であれば来年の春先に再度足を運んでみたいと感じさせてくれる、そんな湧水たちでした。
