現在国内には111の活火山があり、その中の 活動的な火山50について、気象庁は常時観測火山に指定し、24時間体制で監視観測をしている。その中の3つが福島県にあり、磐梯山と吾妻山と安達太良山である。
![90-03-01 安達太良山の火山防災〈全4回〉[その4]](https://www.sinkyo-tisui.co.jp/wp-content/uploads/2025/10/90-03-01.png)
磐梯山噴火記念館 館長 佐藤 公
1.安達太良山の噴火の歴史
火山防災を考える場合、どの程度までその噴火史をさかのぼるべきかを一般の人は知らない。
安達太良山の火山活動は約60万年前に開始した。北は鬼面山から南の和尚山までのかなり広い範囲をさす。しかし、防災を考える上で重要なのは過去1万年以内の噴火である。それは古い時代の噴火場所は、現在活動を終了しているからである。しかし、1万年程度休止した以降に噴火する場合はある。
安達太良山の過去1万年の噴火は、全て沼ノ平(写真-1)からである。現在の研究ではその1万年の中で11回の噴火があり、その半分の5回がマグマ噴火であることがわかっている。約千年に1回の噴火で、その周期は磐梯山に近い。もし、次に噴火する場合、やはり沼ノ平であろうと、私たちは考えている。
最後の噴火が、1900年7月17日の水蒸気噴火で、沼ノ平にあった硫黄工場の従業員が72名、水蒸気噴火による火砕サージ(火砕流の一種で、よりガス成分の多い希薄な流れ)で死亡した(写真-2)。しかし、この噴火は残念ながら地元で継承されてこなかったため、そのような火山災害があったことを知っている人は地元でも少数である。


2.安達太良山の火山防災
火山防災を考える上で重要なことは、どこに噴火口が開くか、どのような噴火現象が発生するか、季節によりその災害の規模はどうなるか、この3点が特に重要である。それ以外にも、火山地域特有の大雨による土砂災害にも注意したい。
①どこに噴火口が開くか
噴火の歴史で書いてきたように、この火山は沼ノ平である。
②どのような噴火現象が発生するか
水蒸気噴火かマグマ噴火のどちらかが発生するが、二つの噴火の特徴を説明しておこう(図-1)。水蒸気噴火は、地下のマグマだまりの上に地下水帯があり、それがマグマの熱で温められ、液体から気体に変換させられ、膨張することで発生する現象である。そのため、数百度に熱せられた水蒸気と火山体の内部にあった物質(岩石や土など)が放出される。
マグマ噴火は、温度が千度前後のマグマそのものと火山体の内部にあった物質(岩石や土など)が放出される。水蒸気噴火に比べて規模が大きい場合が多く、その熱量が高いことから、より大きな被害につながる。
③季節による災害の規模
安達太良山の上に雪が積もっているか、いないかの違いにより、災害の規模は異なる。無積雪期(春から秋)であれば、噴火に伴い放出されるものだけが周囲へ流下する。しかし、積雪期は安達太良山には数mの雪が堆積していることで、この雪が融かされて融雪泥流となり、より広範囲に被害が及ぶ。
④噴石と火山灰
噴石は水蒸気噴火かマグマ噴火かではなく、その噴火の規模により飛散する量及び範囲が異なる。規模が大きければ大きいほど、より遠くへ噴石は飛散するし、より大きいものが放出される。しかし、噴石の多くは火口から数km以内に落下する。火山灰は直径が2mm以下の石の粒で軽いため、噴煙となって上空高くまで舞い上がり、そして風により、かなり遠くまで飛散する。日本の上空は偏西風という西風が吹いているので、東側により多くの火山灰が飛んでいく。1万年前の大規模噴火では、現在の二本松市中心部付近に5〜6cmの火山灰が堆積した。
⑤大雨による土砂災害
火山は火山以外の山に比べて、地質的に新しい場合が多い。それは過去1万年で見た場合、磐梯山でも吾妻山でも安達太良山でも、それぞれに約10回程度の噴火を発生させている。火山は新しい地層が積み重なっていることで、大雨によりその地層の間に雨がしみこみ、土砂災害を発生させる。
1824年9月には、安達太良山の北側の鉄山の南側斜面が大雨により崩れて、当時の岳温泉(現在のくろがね小屋付近)に流れこみ、63人が犠牲となった(図-2)。これを岳山(だけやま)崩れと言うが、地元でもほとんど忘れられている。近年では2013年10月に発生した伊豆大島の台風による土砂災害が有名である。
⑥火山ガス事故
1997年9月15日には、埼玉県から来ていた登山客が4名、高濃度の硫化水素を吸い込んで犠牲となった(写真-3)。他の火山現象とは異なり、火山ガスは噴火をしていない場合でも発生している。特に硫化水素の場合、通常は卵が腐ったような臭いがするが、高濃度になると人間は臭覚麻痺を起こして、その臭いを感じることができない。つまり目の前に高濃度の硫化水素があっても、誰も気づかないのである。2023年7月13日には、安達太良山の西側の沼尻温泉の源泉で、立ち入り禁止にもかかわらず侵入した観光客が高濃度の硫化水素を吸い込んで死亡した。



3.火山防災マップ
これまで解説してきたことが、安達太良山火山防災マップに記載されている(図-3)。しかし、これを配布されただけで、一般住民は理解することが可能であろうか。1985年に南米のコロンビアにあるネバド・デル・ルイス火山が噴火し、その融雪泥流で2万人以上が犠牲となった。この火山では噴火の一か月前に火山のハザードマップが作られていて、そのマップの通りに融雪泥流が流れた。甚大な被害のあったアルメロの町に到達したのは、噴火から2時間後である。
マップが住民に周知されていなかったことにより、甚大な災害となったのである。この噴火がきっかけとなり、世界の火山研究者の中で意識の高い人たちは、積極的に火山防災に係るようになった。しかし、研究者と一緒にこれらのマップを作る行政の担当者は火山の専門家ではない。そのため、研究者主導で作られたマップを地域住民に説明することが苦手な場合が多く、火山防災マップを配布しただけで終わってしまう自治体もある。これを改善するためには、行政の担当者向けの火山の勉強会が必要である。

4.地域に暮らす住民が理解して初めて火山防災は進む
火山防災マップでは、行政の担当者の勉強の必要性を書いてきた。彼らが自分たちで理解した上で、地域の町内会ごとに説明会を毎年のように開いていけば、住民の火山防災は進んでいく。これに連動して、火山地域の学校での火山防災の授業も重要である。私は北塩原村の裏磐梯中学校で20年以上連続して、この授業を実施してきている。また、安達太良山の噴火口から最も近くにある二本松市立安達太良小学校でも、2020年以降に一年おきに出前授業に行き、火山を伝えている(写真-4)。
全国の火山防災先進地を見ると、室内の座学だけでなく、火山の現場を歩く勉強会も定期的に開かれている。私は裏磐梯中学校で火山を理科で学ぶ1年生を対象に毎年銅沼を案内するフィールド授業をこれも20年以上実施している。
安達太良山の特徴として、火山の噴火よりも、大雨による土砂災害や火山ガス事故が多く発生している。地球温暖化に伴い、今後はますます大雨が降る可能性は高まってくる。また、噴火していない時にも発生する火山ガスは、通常目視でその危険性を認識することは困難である。そのため、噴火以外の現象についても、日ごろから火山とセット学ぶことがとても重要である。
気象災害や地震災害と比べて、発生頻度の低い火山災害は、その理解を深めるには地道に啓発活動を継続し、広げていく必要がある。災害は時間とともに忘れられていく。教育啓発活動の継続がその忘却を止めるために最も重要である。
