1.はじめに
今回は二本松市東部の木幡にある湧水、「弁天名水」を訪ねました。木幡は「幡祭り」で有名ですが、この祭りは国指定重要無形文化財に指定されていて、950余年の歴史と伝説豊かな祭りです。
前九年の役（1055年）、天皇の命を受け奥州平定を目指した源氏の軍は戦いに敗れこの地の山に立てこもりました。隠津島神社に戦勝祈願をしたところ、その夜から雪が降り、敵は雪をかぶった木々を源氏の白旗と思い退却し、戦わずして勝利を得たとされています。ここから、戦を命じた天皇は「木」が「幡」になったこの山を「木幡山」と名付けたそうです。神社は木幡の弁天様とも呼ばれており、今回の湧水名とつながっています。
2.湧水への案内
弁天名水は木幡山の南西側の中腹にあり、隠津島神社へ導く標識を辿れば到着できますが、県道117号から神社までの道が分かりにくいかもしれません。地図には矢印で示しましたが、細くて狭くて急な道ですので運転には十分注意してください。
国道4号からは、東和方面の表示に従い県道117号に出ます。117号を東に進み、阿武隈川を渡り道なりに進むと台形の木幡山が前方に見えてきます。県道117号と305号の分岐付近に「木幡山（隠津島神社）2.5km」の道路標識があり、直進して200mほど進むと三差路があり、右折して郵便局の前を直進し、木幡川に沿って登っていきます。立派な鳥居を過ぎ人工登坂用クライミングウォールが見える三差路に出ます。そこを隠津島神社本社の方に左折し、次々と現れる標識に従って坂を上って行くと写真-1の表示が見えてきます。弁天名水の標識の脇にはパイプで清水が導水されていて、手軽に水を汲むことができます。駐車は先に数台分のスペースがあります。
3.湧水の水質について
湧水を採水して実施したイオン分析結果を基に作成したトリリニアダイヤグラムとヘキサダイヤグラムを示します（図-2,図-3）。
トリリニアダイヤグラム、ヘキサダイヤグラムともに一般的な地下水の性質を示しています。
ヘキサダイヤグラムを構成するイオン当量濃度の数値自体が低いことから、イオン成分の溶け込みが少ない地下水と言えそうです。現地で飲んだ印象は苦みや渋みを感ずることなく、まろやかな喉越しでした。
水質成分から計算した硬度は46（mg/ℓ）となり、WHOの区分では軟水（0～66（mg/ℓ））の区分となります。
4.地質と湧出機構
湧水地周辺の地質は川沿いの段丘堆積物を除けばすべて花崗閃緑岩で阿武隈山地に広大に分布している岩石です。また、この岩石は強く風化していてマサ化していて指で簡単に崩せます。弁天名水まで登ってくる途中に露出している崖はすべてこの風化した岩石です。
採水地の先には小さな祠があり、その裏側の崖は風化していない新鮮な花崗閃緑岩が現れています（写真-2）。崖の上は土砂におおわれており、流出源の様子はうかがえません。この位置は地形図から見て、谷地形が隠津島神社から木幡山山頂へと伸びる尾根へと続いていて、その斜面に降った降雨が風化マサにゆっくりと浸透し、新鮮な花崗閃緑岩に到達して湧き出てきたと考えられます。
パイプからは毎分12ℓの水量で流れていましたが、側溝に流れている分も合わせると30ℓ/分以上の水量は出ていると思われます。採水地はきれいに刈り払われていて、地元の方々の手厚い管理の様子を感じました。
5.おわりに
弁天名水と言うことですぐ先の隠津島神社まで足を延ばし参拝してきました。採水日の前日は夕刻から降雪があり、まさに源氏の白旗がたなびく山肌を見ることができるのではないかと期待して行ったのですが、降雪は少なく神社の日陰に薄っすらと残っているだけでした。
駐車場には湧水を引いた手水舎とトイレがあり、10数台分のスペースがあります。本殿へは整備された参道を10分ほど登れば到着です。
本殿に到着する間にも、展望台ではなだらかな阿武隈山地とその遠方に安達太良山山系が望めますし、国指定天然記念物の「木幡の大杉」（写真-4）や県指定「隠津島神社三重塔」（写真-5）があります。大杉は樹齢800年と推定され、苔むして複雑にうねる樹皮には神々しさを感じます。また県内には三重塔が三基ありますが、この地の塔は修復を受けていて、朱が鮮やかな塔は躍動的で見ごたえがあります。
手すりが完備した階段を上ると見事な彫刻が施された拝殿（写真-6）が目に入ります。唐破風に×の印が付いていますが、これは神社を建てた二本松藩丹羽家の家紋で直違紋です。
最後の「おわりに」が観光案内のようになってしまいましたが、ぜひ隠津島神社も訪ねて歴史を感じてほしいと思いました。
